「歓喜の歌」は、「苦悶の演奏」で出来ていた – WS#5

「ベートーヴェンは、『俺がこれだけ苦しんでいるんだ、こんな譜面の難しさなんて小さいもんだ!』と思って曲を書いている」ということを、どこぞの指揮者に言われたことがあります。

自分は非常に納得しました。誰もが知っている「歓喜の歌」――ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調作品125。その中身は、どこをとっても素晴らしい音楽で、しかしどこをとっても難しい楽譜で、こんな曲を書いたベートーヴェンは、よっぽどの偏屈か変態か天才なんだろうと思います。

まあ何はともあれ、ヴァールシャインリヒ・シンフォニカー第5回演奏会、無事に終了いたしました。

ヴァールシャインリヒ・シンフォニカー 第5回記念演奏会 チラシ
ヴァールシャインリヒ・シンフォニカー 第5回記念演奏会 チラシ

ヴァールシャインリヒ・シンフォニカー 第5回記念演奏会

日時
2013年7月28日(日)14:30開演(13:00開場)
会場
横浜みなとみらいホール 大ホール
曲目
ベートーヴェン / 交響曲第9番 ニ短調 作品125 “合唱付き”
演奏
  • 管弦楽:ヴァールシャインリヒ・シンフォニカー
  • 合唱:ヴァールシャインリヒ・コア
  • ソプラノ:三塚直美
  • アルト:戸畑リオ
  • テノール:鏡貴之
  • バス:古澤利人
指揮
吉川清
サイト
Wahrscheinlich, Symphoniker?

アンコール曲もあったけれど、基本的にベト9一曲プログラム。普通の演奏会では序曲の一つぐらいやりそうですが、まあ、このオケは普通ではないので。

開場後、開演前に2階ロビーで、子どもたちによる現代ダンスを行う、なんてのもおそらくこのオケならでは。ダンスユニットCLOVERの主催者であるしづにゃんが、指揮者の吉川清さんの娘さんだということでこのようになったのでしょうが。ちらっとダンスしているのを覗いてみましたが、みんなノリノリでダンスしていて面白かったです。あと、その後に木管五重奏の演奏が同じくロビーで行われる、というのは当日みて初めて知りました。オケのオーボエ・フルートの知り合いの方らしいですが、こちらもポップな曲をやっていてよかったですね。ダンスとの落差がどうなるか気になりましたが、お客様の反応は上々だったのではないでしょうか。

さて、肝心要の第九。第4楽章後半から出てくる独唱と合唱の場面が世間では有名だけれども、当たり前ながら第1楽章・第2楽章・第3楽章があるのである。それを一通り演奏して、第4楽章でそれぞれの楽章をちょっぴり回想し、それを断ち切るようにバスの独唱から「ちっがーう!そんなの歓喜の歌じゃね~し!もっと喜びの歌歌おうぜ!」というところから合唱が始まるのである。

そう、第九は長い。観客も聞いていてそれなりに大変だとは思うのだけれども、演奏する方はもっと大変なのである。どんなに速いテンポでも1時間以上かかる曲なのだから。

オーケストラの各楽器の中でも、ファゴットパートは大変なのである。何せ、パート譜が26ページもあるのである

普通の交響曲なら、パート譜が12ページでもボリュームがあるほうなのだから、その長さが伝わるだろうか。出版元によってページ数が違うから、数だけで一概には言えないのだけれど、兎に角このボリュームの多さは異常であると言える。

そして、第九のファゴットは目立つ。メロディーがやたらある。ある時はフルートと、またある時はクラリネットと、またまたある時はヴァイオリンと、そしてたまにはファゴットのどソロである。第2楽章で強奏でのフェルマータの後に入る楽器はファゴットだけだし、第3楽章の冒頭はファゴット2ndからである、第4楽章のヴィオラ・チェロの裏での対旋律は、むしろ対旋律の方が目立ってしまって構わないよね!?というぐらい良いメロディーだ。こんな風に、オーケストラ内で目立つ箇所を挙げたらキリがない。

第1楽章は、演奏時間に比するとそれほどでもないのだが、第2楽章・第3楽章は演奏するだけでもかなり体力を奪われる。特に第3楽章に至っては、木管アンサンブルに弦のオブリガートと金管のアタックが加わっただけ、という感じで、ずーっと木管が出ずっぱりなのである。ちなみに、同じ木管の2ndパートでも、フルートとオーボエは割りとこの楽章については暇なそうなのだけれど、クラリネットとファゴットについては、箇所によっては1stより目立つ場面があるほど音符が多い。

第九のコントラファゴットは第4楽章からしか出番がない、ということを利用して、コントラファゴットパートに第3楽章まではファゴットでアシをしてもらって、体力的な面で大いにカバーしてもらった。第3楽章はほぼ半分ほどの譜面を負担してもらったぐらいである。

・・・とまあ、そんな風に大変な第九ですが。本番半年ほど前まで管楽器が揃っているのだかビミョーな状態でしたが、残り3ヶ月ほどでスパートを掛け、セクション練習などを何度か行ったおかげで、それなりにまとまった演奏になったとおもいます。第1楽章でなんかコケた部分もあってヒヤリとしましたが、第3楽章は(今までの練習も含めて)一番上手く出来たかもしれません。

観客数も今回は1100人を超えたそうです、合唱の人たちが勧誘してくれたということもあったのでしょうか。これだけのお客さんに聴いてもらえて、拍手を貰えた演奏会、成功といっていいのではないでしょうか。

思えば第3回演奏会が終わった直後から練習を開始したので、足掛け2年も準備をしてきたことになります。それだけの準備が全て演奏会につながったか、というと素直に頷くのは難しいですが、それでも「おそらく交響楽団」がそれなりの成果を上げることが出来たのは確かだと思います。

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