私の所属している東京ハートフェルトフィルハーモニック管弦楽団(THPO)の第15回となる演奏会が、11月23日に行われました。
東京ハートフェルトフィルハーモニック管弦楽団 第15回演奏会 ファミリーコンサート 《大いなる川とともに》
- 日時
- 2017年11月23日(木・祝) 開場14:30 開演15:00
- 会場
- 川口総合文化センター リリア メインホール
- 指揮
- 小松 拓人
- 江戸川 長一郎
- 曲目
- ベドルジハ・スメタナ / 交響詩『ヴルタヴァ(モルダウ)』(連作交響詩「わが祖国」より)
- ジャン・シベリウス / 交響詩『トゥオネラの白鳥』(「レミンカイネン組曲」作品22より)
- ロベルト・シューマン / 交響曲第3番 変ホ長調作品97 『ライン』
- アンコール : ヨハン・シュトラウス2世 / ワルツ『美しく青きドナウ』作品314
- 入場料
- 入場無料・全席自由
- 入場には整理券が必要です。当日受付にて13:30より配布予定。
- 第9回演奏会 (2011.12.03)
- 第10回演奏会 (2012.11.23)
- 第11回演奏会 (2013.10.13)
- 第12回演奏会 (2014.10.13)
- 第13回演奏会 (2015.11.14)
- 第14回演奏会 (2016.10.08)
- 第15回演奏会 (2017.11.23)
THPOの奏者としての参加は7回目、運営として参加してからは3回目となります。
選曲案が選ばれたのは第13回に続いて2度目。第13回の時は仮面舞踏会、魔法使いの弟子、新世界より、という曲目でした。どの曲も吹きたかったばかりで、「Another World」というテーマにも沿っていて、自分自身も非常に楽しんで演奏することが出来ました。
第15回演奏会の選曲は、まず会場「川口総合文化センター・リリア」が決まっているところから始まりました。THPOとして初めての埼玉県での公演です。そして川口=荒川がそばを流れる街、というところから河川にちなんだ曲目を並べることを、選曲案の候補として思いつきました。いわばノリで曲を決定したので、実は「この曲が演奏したい!」「ずっとやってみたかった」という曲それぞれへの深い想いなどは、それほどなかったのです。
選んだ曲は、スメタナの交響詩「ヴルタヴァ(モルダウ)」、シベリウスの交響詩「トゥオネラの白鳥」、シューマンの交響曲第3番「ライン」。ちゃんとそれぞれ河川名が曲に入っています。
川でクラシックといえば、ということでヴルタヴァ(モルダウ)はイの一番に決まりました。合唱曲としても知られているし、クラシック音楽を知らない人も聞いたことがあるはず、導入としてはうってつけでしょう。
2曲目に選んだのはトゥオネラの白鳥、前の曲とうってかわって静かな曲です。ファミリーコンサートとして相応しいかどうか、ということも考えましたが・・・敢えて毛色の違う曲、冥界の川という現実から遠のいた雰囲気の曲を挟むことで、クラシック音楽の世界をより深く知ってもらえるのではないかと考え2曲目に。「単なる親子向けコンサートではないんだぞ」というTHPOらしさをちょっとでも出せたらいいな、とも考えました。
3曲目はライン、交響曲で川の名が入っているのが他に思いつきませんでした。ライン川を散策して曲の意欲が湧いて生まれた曲ということですから、演奏会テーマにももってこいでしょう。第4番は以前私が演奏した機会があるのですが、他のシューマンの交響曲を演奏したい、特にもっとも最後に作られた第3番(出版順で番号が付けられていますが、第3番の初稿は1841年、第4番は1850年に作曲されています)は、荘厳な響きの第4楽章を含めた5楽章編成というのも面白さがあり、一度はじっくり向き合ってみたい曲でした。
アンコールは当初から決めていました、ヨハン・シュトラウス2世「美しき青きドナウ」です。川にちなんだ有名な曲であり、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートで毎回定番のアンコール曲で、このプログラムでこれ以上アンコールに相応しい曲はないのではないか、と思っています。それにこれほど有名な曲ながら、自分自身で演奏したことはこれまでありませんでした。ヒネモスのレパートリー曲にはありましたが、吹奏楽編成だし編曲されて調性も違う、そしてホールできちんと公演をしていないために不完全燃焼となっていたので、これもいつかはやってみたい曲の一つになっていました。
以上のように選んだ曲目をセットで投票案に提出したところ、他の選曲案をおさえて団員からの票を最も集めることとなりました。2管編成、どれもそれほど珍しい曲ではありませんし、川のテーマということで統一感があることが選ばれたポイントかもしれません。楽団事務局の一人がまたもや曲案を通してしまうところに若干の引け目はちょっと感じはしましたが・・・。
曲が決まれば次はチラシ・ポスターのデザイン案です。例年に比べ今回は早めに取り掛かり、初合奏の前、団員募集のデザインということでウェブフライヤーを作ることとしました。
今回は曲それぞれ特色があり、モルダウにはプラハの街並み、トゥオネラの白鳥にはそれを描写した絵画、ラインにはケルン大聖堂を背景にした鉄道橋の写真を取り入れました(上記で文章の前後に挟んでいる画像です)。それぞれ、モルダウは川そのものを、トゥオネラは生死の境となっている川を、ラインは川がもたらす沿岸の文化の発展、という川の様々な面を伝えられる画像を選んだつもりです。
会場の川口というところもプッシュしたいと考えて採用した画像は、歌川広重の浮世絵「名所江戸百景」のうちの一つ、『川口のわたし善光寺』です。現代の川口らしい風景を見つけるのが難しいこと(キューポラのある街だとすると工場のある街並みなのでしょうが…)、トゥオネラも絵画を引用しているので、写真と絵画それぞれ2つずつを使う方がバランスが良いのではないか、という考えからです。
それを組み合わせたのがこちらのフライヤーなのですが、初合奏前の決起大会(という名の団員有志の飲み会)に出席したマエストロにお見せしたところ「もっとカッコいいのが良い」という注文を受けました。なるほど改めてみると色使いが若干地味で、写真・絵画を背景すべてに張り付けているためメリハリがありません。それと4つの画像がそれぞれの川にちなんでいる、ということが分かりづらいですね。
そこでデザインを再検討することとしました。参考にしたのはなんとアニメ映画「ソードアート・オンライン」のポスターだったりします。淡い色と幾何学模様で組み合わされた登場人物の顔、文字を少し縦長に変形し間隔を空けて配置された文章。「これを真似すればちょっとは今風のデザインになるのではないか」と考えました。
用いる画像はそのままに、それぞれの色彩を統一して4つの画像で色合いを変えることで「様々な曲がある」ということを表し、それぞれの画像のモチーフとなる川・地名を大きめに英語で書いてそれぞれの出自を主張させています。停滞した印象を持たせないため、画像を切り取る枠は少し傾け(第15回演奏会なので水平から15°の線でトリミングしています)、圧迫感を出さないようそれぞれの画像は隙間を設けています。
4つの画像に隙間を設けたことで空いてしまった背景に、ほかの画像を加工して載せることとしました。選んだのはドナウ川沿岸のパッサウの写真。そう、チラシ画像の段階で、さりげなくネタバレを配置することとしました。アンコールまで含めて完成されたプログラムなのだけれど、さすがに事前に曲目に載せるわけにはいかない、というバランスを考えて可能な限りの遊び心を取り入れました。
こうして完成したデザインを、チラシ、ポスターや入場整理券のほか、パンフレットにも取り入れました。
パンフレットは前回と同じB5仕上がりの3面開き。最初にパンフレットを開くと曲目と真面目な曲解説文、もう一つ開くと企画のページ、というのも同じ構成です。内容量がB5用紙で6ページ分がちょうど良かった、というのもありますが、準備する期間が少なくなってしまい同じ構成を踏襲せざるを得なかった、という理由もあります。
ちなみに各曲の解説文も私が書きました。この仕事は誰かに割り振っても良かったのですが、「全体のスペースを考えてこれだけの文字数で書いて!」というお願いをするのが難しく、だったら書いてしまえ、と。また、特にヴルタヴァの曲を解説するのに、単なる川下りの描写だけでなっく、ドイツ民族の抑圧への抵抗(だから「わが祖国」というタイトルであり、ドイツ語のモルダウでなくチェコ語のヴルタヴァという呼び方にするべきだる)、という意味合いを込めたかったのです。
企画のページでは、ヨーロッパの主要な川の紹介を地図付きで紹介しました。地図のデータはWikipediaにあったのを使いました。このデータ、SVG形式で描かれているのでIllustratorと連携しやすくて助かりました。川の線もベクター形式なので、該当の線を選択して色を付けるだけの作業で済みました。
見開き2ページを使って地図で川を説明したのは、曲の解説ができないドナウをここで紹介するためと、文章だけでは説明しづらい河川どうしの位置関係をわかりやすく伝えるためです。というか自分自身、このページを作ったおかげでヴルタヴァ、ライン、ドナウそれぞれの川が近接していることに気づけました。
THPOの特徴の一つである、演奏会を進行する語り部について。前回は降り番の団員に頼みましたが、今回は私の友人、江戸川長一郎氏に依頼することにしました。小学校・中学校の同級生で、その頃から芸能方面への活動を口にしていた彼を、何かしらの形で起用したいと前々から考えていました。
普段の活動であるビジュアル系バンドとは、ちょっと、いやだいぶ趣向の異なる仕事ですが、過去には演劇の仕事もしていました(劇団「山下幼稚宴」の公演に出演していました)し、THPOの演奏会の2週間ほど前にもトークイベント(?)の仕事をしているので、まあ問題はないだろうと判断しお願いしました。本番の1ヶ月前と間近になって連絡したにも関わらず、快く引き受けてくれて非常に助かりました。あと、名前に江戸川とこれまた河川名が入っているのも良かったです(本当に偶然なのですが)。
曲進行の台詞は、あまり奇をてらわず曲の紹介に留めるつもりでしたが、ヴルタヴァは合唱曲「モルダウ」としても知られている(というか私の中学校でも合唱祭で歌っているクラスがいました)ということで、ちょっとメロディを口ずさんでもらいました。交響曲の楽章の間で台詞を挟むべきかどうか悩みましたが、教会の荘厳な雰囲気を模したということを観客に印象づけたいために、第4楽章の前にも台詞を入れました。
前々回では「魔法使いの弟子」で箒が勝手に動き出す様子のシーンを抜粋して演奏したりしましたが、今回は演奏と台詞は分離し、奏者が演奏に集中できるようにしました。
パンフレット、演奏幕間での語り以外の企画は他の方に案を出してもらい、団員がこれまで撮影した世界各地の河川の写真を展示してコンテストをしてもらいました。募集したところたくさんの写真が寄せられ、どの写真も予想以上に綺麗でびっくりしました。演奏だけでなく視覚でも川を楽しめますし、良いと思った写真に票を投じることでお客様にも積極的に参加してもらえる企画となりました。
ただいま準備中です! #THPO pic.twitter.com/szQKK0q7hg
— 東京ハートフェルトフィルハーモニック管弦楽団 (THPO) 第15回公演 11/23@川口リリア (@thpo_info) 2017年11月23日
今回の演奏会はヴルタヴァとラインはアシ、トゥオネラをファゴット1stパートを担当し、演奏面での負担を極力減らすこととしました。結果として、ロビーでの写真コンテスト以外は企画業務にかかりっきりとなっていたため、演奏で頭を悩ませることがないのは良かったです。
ただ私が唯一正乗りだったトゥオネラの白鳥、曲の完成度がなかなか上昇せず冷や冷やしました。奏者個人個人の技量の問題ではなく、オーケストラとしての一体感がなかなか熟成されなかったように思います。他の曲と雰囲気があまりにも違うため、その空気を共に作り出せなかったのではないかと思います。ただ練習回数を重ねるごとにその不安はなくなっていき、本番では冥界に佇む白鳥の様子がホールに描き出されたことと思います。
そのほかの曲は、演奏面ではそれほど心配していませんでした。別に簡単な曲とは思いませんが(というかどのパートも大変ですが!)、どこかのパートの失敗が伝染して曲全体のクオリティが低下する、といったことが発生しづらいオーケストレーションと思われたからです。
会場を全日確保したため(舞台設営に時間がかかるため午前午後だけでは時間不足でした)、設営と撤収にはかなり余裕を持って取り掛かれました。企画のタイムスケジュールを印刷していなかったために急遽コンビニに走るなどの多少のゴタゴタはありましたが、演奏会本番は無事に遂行することができました。
残念だったのは集客が482と前回よりかなり少なくなってしまったことです。広報活動は前回よりも活発にしていたはずですが、場所が埼玉県であったこと、そして当日午前に激しい雨が降ったことでしょう。午後には雨は止んだのですが、あの雨で足が遠のいた人も少なくなかったのではないか、と思われます。
奏者の一体感も回を重ねる毎に高まっているのを感じますし、演奏と企画が観客の皆様に確実に好評を得ている実感もあります。次回公演の日程も決定しましたし、次の公演もこの調子で行っていきたいですね。