4月19日にルネこだいらで行われる市民吹奏楽団 Hynemos Wind Orchestra の第7回定期演奏会まで、ちょうど1ヶ月となりました。
練習もラストスパート、広報活動もラストスパートを掛けたいところですが、ここらへんで「ニッポンの吹奏楽」という第7回定期演奏会のテーマから、「海の見える棚田」をなぜチラシやポスターに使われている画像に選んだのか、説明しておきたいと思います。
一般に「日本」というと、どのようなイメージだろう。やはり桜とか、富士山とか、寺社仏閣などを思い浮かべるのではないでしょうか。
芸者とか、お祭りとか、歌舞伎とか、見栄えもよくて華やかさが出て良いですね。
題材が色々あって、なかなかテーマを絞れません。ここで、音楽監督が演奏会招待文(第3版のチラシ裏面に掲載、各宣伝サイトにも使用)に綴っている言葉を振り返ってみましょう。
世界的に見てもかなり特殊で豊かな吹奏楽の土壌を持つ日本。今回のヒネモス定期では、その日本の吹奏楽を特集しています。
日本の吹奏楽の特殊性を際立たせる物のひとつは課題曲だと言えると思いますが、その過去の課題曲の中から、まだ完全に委嘱作ではなかった時代のもの(リード)、海外の人気作曲家に委嘱したもの(ジェイガー)、課題曲という文化が無ければ巡り会うことはないであろう大作曲家の作品(三善)、そして、様々な試みの中で生まれた大作ばかりの1994年の課題曲を演奏いたします。
また、日本の民謡や童謡を用いてイギリスの作曲家ホルストによって書かれた作品(「日本組曲」)と、東洋のバルトークと称され、その作品をベルリン・フィル・ハーモニーの演奏会でも取り上げられた大栗裕の作品(「神話」「大阪俗謡による幻想曲 」)を聞き比べることによって、日本的な吹奏楽作品とは何か、という問いにとどまらず、日本の音楽とは何かを考えていただける体験となり得るのではないでしょうか。
この機会に是非会場にお越しください。(監督)
コンクール課題曲と日本にまつわる曲を合わせて取り上げており、単なる邦人特集や民謡特集というわけではない、ということだそうです。実際に演奏する曲目は以下の10曲です:
- R. ジェイガー / ジュビラーテ
- 田村文生 / 饗応夫人〜太宰治作「饗応夫人」のための音楽〜
- 間宮芳生 / ベリーを摘んだらダンスにしよう
- 川崎美保 / パルス・モーションII
- 三善晃 / 吹奏楽のための「クロス・バイ マーチ」
- A. リード / シンフォニック・プレリュード
- 大栗裕 / 吹奏楽のための「大阪俗謡による幻想曲」
- 櫛田胅之扶 / 雲のコラージュ〈改訂版〉
- G. ホルスト / 日本組曲 作品33
- 大栗裕 / 吹奏楽のための「神話」〜天の岩屋戸の物語による
この中で、大栗裕の「大阪俗謡による幻想曲」は、祭で出てくるお囃子なんかのメロディを引用しているので、岸和田のだんじり祭の写真などを使うとピッタリなような気がします。
しかし、同じ大栗裕でも「吹奏楽のための『神話』」は、日本神話の「岩戸隠れの伝説」をモチーフとしています。天から太陽が消えて混乱した地上、天照大神を天岩戸から出そうとする大騒ぎ、天手力雄神が引きずり出して地上がまた明るくなる光景などを「即物的に」描いています。いわば日本建国時における大事件を描いた曲であって、華やかなお祭りとかとはちょっと違うような(お祭り騒ぎはあったんでしょうが)。
イギリスの作曲家ホルストが、日本人舞踏家である伊藤道郎の鼻歌を採譜して作曲された「日本組曲」は、最後はやはりお祭り騒ぎで大々的なフィナーレを迎えるわけですが、冒頭の「漁師唄」で出てくる、物悲しげで孤独感漂うファゴットのソロが印象的です。このメロディは曲が移り変わっても変化しながら再登場し、曲に統一感を与えています。
個々の曲を見ていくと、決して華やかさだけでない、奥ゆかしく、儚げな、時に恥ずかしさを感じる、形容しがたい日本らしさを感じずにはいられません。…こう書いていてなんですが、まあよく分からなくなったわけです。
そこで、景勝地や名物だけでない、しかし日本らしさを感じるところは何処だろうか、ということを考えました。自然とともに歩み、人々の営みを感じられる風景があるだろうか?
狭い土地での農耕をするため、尾根沿いに小さい田をいくつも作り、稲作を行う。山を切り開くほどの自然を破壊するわけでもなく、かといって山から離れるわけでもなく。あくまでも自然を利用し、かつ人々の営みを育む――棚田こそ、日本人の勤勉さ、自然への畏怖の象徴なのではないか。日本人の精神性を象徴する風景の一つなのではないか、という考えに至りました。
体験稲作を小学校の頃に行ったし、田んぼ自体は列車の車窓からも眺めたことは幾度もあります。しかし棚田は…?ということで、私史上初、チラシのデザインのために、現地を視察してきました(実際に行ったのは栃木県内にある国見の棚田です)。
ただ、実際にチラシで使ったのは佐賀県東松浦郡玄海町の、浜野浦の棚田としました。Wikipediaの記事のトップにも掲載されている、海岸の見える美しい棚田です。日本組曲に「漁師唄」があるように、山沿いかつ海を一度に感じられる景色を載せたかったのです。
そんな浜野浦の写真を、あーしてこうして加工して、出来上がったのが冒頭のチラシというわけです。2014年の2月にこんなツイートをしているので、およそ丸1年、考えに考え抜いて七転八倒しながら難産したのがこのチラシ。これまでにないほどの苦労をして作ったこのデザインですが、団員や知り合いに配布した時の反応は上々、苦労した甲斐があったようです。
このデザイン以外にも、「日本らしさ」を演出するために他にも工夫を行っているのですが、それについてはまた後日。ともかく、1か月後にルネこだいらで行われるヒネモスの定期演奏会を、よろしくお願い致します。