東京工業大学の科学技術コミュニケーション論(組織としては留学生センターの下、なのかなあ?)の集中セミナー、「ケーススタディ―エネルギービジネスと社会的責任」が11月の9日(月)から12日(木)まで開催されていて、そのうち11日と12日のセミナーに出席しました。
タイトルだけだと内容がピンと来ないけど、「科学技術を産業に活かすだけでなく、人間社会そして地球環境に還元するために科学者はどうすべきか、またその内容を消費者など一般の人々にどうやって伝えていけば良いのか」ということだと思う。専門外の人に科学技術を伝えるのって大変だよねー、ってことですね。
スケジュール 回 日付 担当 内容 第1回 11月9日(月) 18:00-19:30
(公開講座)(株)リバネス専務取締役COO 高橋修一郎
掛川市福祉生活部部長 伊村義孝「地域社会×新エネルギー ?今そこにある"ビジネス"とサイエンスコミュニケーション」
地域における新エネルギー導入による地域活性化事業について、自治体と企業の実例を講義。それをもとに研究者の関わりかたについてディスカッションを行う第2回 11月10日(火) 16:40-18:10 (株)ベネッセコーポレーション 須藤淳彦 「ビジネスマインド・マーケティングの考え方?ポケチャレからDSまで?」
マーケティングの実例と基礎講義を踏まえ、企画を考案・評価する簡単なワークショップを行う18:20-19:50 東京電力(株)企画部 調査グループ 穴山悌三 「インフラを担う企業の考える新エネルギーの未来と取組実践例1」 第3回 11月11日(水) 16:40-18:55 三菱電機(株)先端技術総合研究所 三浦成久 「インフラを担う企業の考える新エネルギーの未来と取組実践例2」 第4回 11月12日(木) 16:40-18:55 東京電機大学 世良耕一 准教授 「ビジネスと社会貢献を結ぶ?Cause-Rrelated Marketing入門」
単なる「社会貢献」ではない企業利益と両立した積極的なマーケティングについて多数の事例をもとに解説(株)リバネス人材開発事業部チーフマネージャー 石澤敏洋 「ワークショップ?掛川市における太陽光発電導入のコーズブランディング」
第3回の講義は、三菱電機が現在進めている新エネルギーの開発についての話。CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)として三菱電機では「環境ビジョン2021」という長期ビジョンを宣言していて、地球温暖化対策事業を拡大する方針を打ち出している。高効率な太陽光発電システム(18.6%という変換効率は世界最高水準!)やパワーコンディショナー、パワーエレクトロニクスなどの開発を進めているそうです。
三菱電機って、三菱重工業とか三菱UFJとか他の三菱グループに比べてちょっと押しが弱い感じがある(地味?)けど、堅実に技術開発を行っているようです。
第4回の講義の前半は、CRM(Cause-Related Marketing:コーズと関連させたマーケティング)について。コーズは「大義・信条・主張」と訳されたりするらしいけれど、ここでは「良いことなので、援助をしたくなるような対象」のことを指すそうです(具体的にはユニセフや日本赤十字、福祉団体など)。「社会貢献」というのもちょっと微妙で、略称でCRMかコーズ・リレーテッド・マーケティングと言うそうで。
アメリカン・エキスプレスが1981年にカリフォルニア州で芸術団体を支援したのがCRMの元祖だそう(1983年の自由の女神修復プロジェクトは「初CRM」ではないとか)。その他ソニーのCRM担当部署が「社会貢献室」から「コミュニティーリレーション(CR)室」に名前を変えた話(「社会貢献」という名前が会社からの押しつけと受け取られかねないから出そうな)や、具体的なCRMについての事例、フィランソロピーとCRMとの違いなどについても話を伺った。東洋水産がYOSAKOIソーランに支援を行う話では、闇雲にCRMを行っても会社のイメージは必ずしも上がるわけではない(むしろ下がることすらある)という興味深い話だった。
ちなみに「直接金になるわけじゃないけど、会社のイメージが上がるとか巡り巡って会社の利益になる」マーケティングことをCRMと言うのに対し、「直接金になるし、会社のイメージも上がる」マーケティングを「エシックス・リレーテッド・マーケティング(Ethics-Related Marketing; ERM)」というのを、世良さんが提唱しているとか。上記の例では三菱の太陽光発電システムとかがそれにあたるはず。
講義の後半はCRMの実戦編。現在掛川では太陽光発電を促進する一環として、グリーン電力証書というものを導入仕様としているらしい(もう導入してる?)。会社などがグリーン証書を購入して、証書を発行した機関がその金の一部を環境基金として積み立てる。そこで、ワークショップではその基金の使い道についてのアイデアをまとめることに。
とはいえ30分くらいではなかなか良い案が思い浮かばない(そもそもグリーン電力証書がわかりづらい!)。自分は市の施設の命名権を与えるとか言ったけど、それって良く考えたら基金の使い道じゃないなあ。芸術祭の開催資金とか・・・は既にやってるのかな?掛川市の人は「ポイントカード」に結構食いついていたな。
今回の集中セミナーは単位に認定はされないけど、来年度以降から正式な授業として組み込まれるそうです。・・・って言うと参加しただけそんな気がしてしまうけど、企業の方の貴重な話を聞くことが出来たし、CRMについては自分は初めて言葉自体を聞いたので興味深かったです。
あと、この講義にも参加していた、研究キャリア応援マガジン「incu-be」などを発行する、(株)リバネスについてもちょっと興味が出てきました。リバネスは東工大のほか東大・農工大と「産業技術コミュニケーター人材育成プロジェクト」を行っているそうです。科学技術者のための(でもちゃんと一般人でも読めるような)雑誌ってあまり見たことがなかったし、今回のセミナーで「科学技術者と一般人のコミュニケーション」の大事さを改めて知ったので。今後注目したい会社です。取り敢えずバックナンバーがウェブサイトで読めるので、ちょっとずつ読んでみようかな。