2月9日は毘沙門天管弦楽団の第57回演奏会でした。
毘沙門天管弦楽団 第57回演奏会
- 日時
- 2020年2月9日(日) 開場13:30 開演14:00
- 会場
- 調布市グリーンホール 大ホール
- 曲目
- ロビーコンサート : 渡辺岳夫 / 「おしえて」(アニメ「アルプスの少女ハイジ」オープニングテーマ、フルート・オーボエ・ファゴット・クラリネット4重奏)
WATANABE, Takeo / OSHIETE (Opening music of “Heidi, Girl of the Alps”)
- ロビーコンサート : ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル / クラヴィーア組曲第2巻第4番 第3曲「サラバンド」(2つのファゴットとチェロの3重奏)
Georg Friedrich Händel / Suite de pièce Vol. 2 No. 4 (HWV 437) 4th mov. : Sarabande
- ジョルジュ・ビゼー / 『カルメン』第1組曲・第2組曲
Georges Bizet / “Carmen” Suite No.1, No.2
- ピョートル・チャイコフスキー / 交響曲第6番ロ短調 作品74 《悲愴》
Пётр Ильич Чайковский(Pyotr Ilyich Tchaikovsky) / Symphonie no 6 en si mineur, Op. 74« патетическая (Pathétique) »
- アンコール : ピエトロ・マスカーニ / 『カヴァレリア・ルスティカーナ』より 間奏曲
Encore : Pietro Mascagni / Cavalleria Rusticana – Intermezzo
- 入場料
- 全席自由 1,000円
- 指揮
- 横山俊充
毘沙門では今回始めてロビーコンサートを演奏しました。ファゴット3重奏(もしくはアドリブパートを含めて4重奏)の譜面をファゴット2本とチェロで、ヘンデルのサラバンドを演奏しました。いい曲だったしメンバーも良かったのですが、自分としてはややミスがあってちょっと心残りがありました。
ちなみにロビーコンサートでは初の司会もやりました。なんで?一応原稿は用意して、「カルメンと悲愴のあいだ頃に作られた文学作品が『アルプスの少女ハイジ』」「カルメンの舞台スペインが中央アメリカから取り入れた音楽がサラバンド」とか、一応今回の演奏会プログラムに絡めた紹介をさせていただきました。
演奏会本編、カルメンは昨年5月に演奏していました。ただその時の演奏は、舞台上のあちこちで入り間違いなどのミスが発生して、決して満足の行く演奏には仕上がりませんでした。今回は練習をそれなりに重ね、比較的満足の行く演奏ができたと思います。
悲愴は昨年11月のTHPOでも演奏した曲で、1stと2ndをお互いに吹くことからあえて短期間に2度演奏する、ということも以前ブログで紹介しました。演奏会前半で1stを吹ききったということもあり、後半の悲愴は比較的リラックスして演奏に臨むことができました。ちゃんと1stを支えられた、と思っています。あちらが沿う感じてくれれば幸いなのですが。
今回のチラシとプログラム表紙のデザインも私が担当したのですが、今回は「デザイナーコメント」として、今回の演奏会チラシに使った写真の解説を入れさせてもらいました。
チラシやパンフレット表紙のデザインに用いている写真の風景は、栃木県那須町にある殺生石と呼ばれる史跡で、玉藻前(たまものまえ、玉藻御前とも)の伝承に由来するものです。
玉藻前は伝説上の女性で、美貌と博識を備えていたことから、平安時代末期に院政を敷いて権力を振るっていた鳥羽上皇に寵愛を受けていました。しかしその正体は妖狐が化けた姿であり、正体を見破られて京の都から那須野へ逃亡するも、その地で討ち果たされてしまいます。
討ち取られた後は巨大な毒石へと変化し、近づく人間や動物の命を脅かすことからいつしか『殺生石』と呼ばれ、村人から恐れられるようになります。(恐らく温泉が湧き出して硫黄ガスが噴出したものと思われます)それを会津の高僧 玄翁和尚が破壊し、その破片は全国へと飛び散ったと謂われています。破片の一つは那須に残り、今では那須湯本温泉の観光名所となっています。
カルメンと悲愴を取り上げる今回の演奏会のテーマは「生と死」、そんなテーマに沿い、かつどちらかの曲目にイメージが偏りすぎないよう、日本の歴史上の生と死、愛憎渦巻く伝承である玉藻前の、象徴的なエピソードに由来する史跡を選びました。
チラシ表紙のキャッチフレーズに使われている“I am. I was.”は、2001年公開のアメリカのSF映画、「A.I. Artificial Intelligence」で出てくるフレーズです。
ブライアン・オールディスが1969年に発表した「スーパートイズ」を原作とした映画化を企画したスタンリー・キューブリック、後にその遺志を引き継いだスティーヴン・スピルバーグが監督となり完成した作品です。
人間と同じ愛情を持つ少年型ロボットであるデイビッド(演:ハーレイ・ジョエル・オスメント)は、母親と認識しているモニカに森の中で捨てられてしまいます。彼女にもう一度愛してもらいたいと願うデイビッドは、玩具型ロボットのテディと、セックス・ロボットのジゴロ・ジョーと旅をします。旅の行く末で見つけた真実、それは自分が量産された子供型ロボットの一つに過ぎないということでした。デイビッドは絶望し、海の底へと沈んで行きます。『モニカに愛されるために、人間になりたい』と願いつつ機能を停止するデイビッド。そして2000年の月日を経て、デイビッドは再び目覚め―― 悠久の時を経て紡がれる、ロボットと愛の物語です。
デイビッドと並ぶこの物語のもうひとりの主人公がジゴロ・ジョー(演:ジュード・ロウ)です。“彼”はとある事情により警察から追われる身であり、逃避行のさなかで紛れ込んだ森でデイビッドと出会います。ロボット破壊ショーなる物騒な見世物の餌食になりそうになったり、警察のヘリコプターを奪取するなどデイビッドとの逃避行の大半を共に過ごしますが、最後には警察に捕らえられてしまいます。
警察に連れ去られデイビッドと離れてしまう直前、彼が叫んだ言葉――それが“I am. I was.”です。戸田奈津子による字幕では「僕は生きた。そして消える。」と訳されています。モノにすぎないロボットが、最後に人間と同じく生きていることを実感し、そしてその生涯が今まさに閉じようとしていることを感じ取った、その感情に等しい認識がとっさの一言に込められています。
本演奏会の曲目は、いずれも作曲されたしばらく後に作曲家がこの世を去っています。しかし生み出された曲は作曲家が生きた証として、今に至るまで演奏され続けています。
毘沙門天管弦楽団 第57回演奏会 プログラム デザイナーコメント
今回のチラシに用いた「殺生石」と、その横に添えた「I am. I was.」のフレーズが少しトリッキーで解説が必要だと思われたこと、普段の3曲プログラムではなく2曲プログラムなのでページが余っているだろうと思われたことから、ちょっと無理を言って挿入してもらったものです。デザイナーの独り善がりかと思われるかもしれませんが、デザインの答え合わせを載せられる事ができてよかったです。