私の想いを凝縮したコンサート – THPO第13回演奏会《Another World》

当ブログでも宣伝しました、THPO第13回公演が、無事に終了いたしました。

東京ハートフェルトフィルハーモニック管弦楽団 第14回演奏会ファミリーコンサート《Another World》

東京ハートフェルトフィルハーモニック管弦楽団 第13回演奏会 チラシ
東京ハートフェルトフィルハーモニック管弦楽団 第13回演奏会 チラシ
曲目
アラム・ハチャトゥリアン/組曲「仮面舞踏会」
ポール・デュカス/交響的スケルツォ「魔法使いの弟子」
アントニン・ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調 作品95「新世界より」
アンコール:ジャック・オッフェンバック/オペレッタ『地獄のオルフェ(天国と地獄)』序曲より カンカン
指揮
藤本宏行
語り
辻博己
日時
2015年11月14日(土) 開場13:30 開演14:00
会場
練馬区立練馬文化センター 大ホール(こぶしホール)

THPOの話をする前に。今年4月に行われたヒネモス第7回定期を広報5年、ファゴット奏者10年の集大成と題したように、ヒネモスの活動に一旦区切りをつけた(辞めるわけではない)。それらの経験を元に、また違う音楽のフィールドで、運営を含めた活動を行いたいと考えていた。

その新たなる活動の拠点として自分が選んだのが、東京ハートフェルトフィルハーモニック管弦楽団、略称THPOだ。既に4回出演しているので楽団の雰囲気や演奏会までの流れは大体把握しているつもり。自分自身、吹奏楽曲よりオーケストラ曲の方が知っている数が多いので、管弦楽団の運営に関わりたい。これまでの「演奏だけでなく演出も含めた演奏会」という趣旨も好きだった。それに、THPOの運営から運営への参画を要請されたことが以前にもあったので、私の事務能力を少なくとも買っていてくれる、という自信もあった。

初めて選曲案が選ばれた

「仮面舞踏会」「魔法使いの弟子」「新世界より」という3曲で《Another World》というテーマを思いついたのは、第12回演奏会の準備も佳境のさなか、THPOのメンバーと食事をしていた時の事だったはずだ。

第12回演奏会の曲目はどれも素晴らしいし、オーケストラ曲の解説を交えるスタイルはTHPOの理念とも合致している。しかし、単なる解説はちょっと勿体無いのではないかと感じていた。もっとストーリー仕立てだったり、曲の世界観に引き込む演出が出来ないものか?と。

思い描いていたのは、第9回演奏会で、幻想交響曲の主人公である音楽家の、愛する余り愛しい人を殺めてしまい、死してもなおその幻想を追い求める、感情豊かな描写。楽しく、苦しく、そして世界観に引き込まれるような、そんな曲目と演出をやってみたい、と感じていた。

前述の3曲は、いずれも名曲であるだけでなく、それぞれの曲が所有する世界観を、すんなりと自分が思い描けるもの。「現在の社会や生活とは異なる世界――Another World」というテーマで、統一性も作ることが出来る。またこの Another World というテーマは、普段クラシック音楽を聞かない人にもオーケストラに触れてもらうという、観客にとっての Another World という意味も込められる。

それと、もっと個人的な意味もテーマに含まれる。この3曲、アマチュアオーケストラでもよく演奏される曲だが、自分はこれまで(何故か)演奏したことがまだなかった。自分にとっても新たなる世界への挑戦でもあった。

第13回演奏会の選曲に複数案を提出し、最終的に《Another World》が選ばれた。選曲で投票してくれた団員が何を思ってこの案を選んでくれたかは分からないけれど、無茶すぎない難易度と編成、世界観の統一性が決定打になったのではないだろうか。

運営に参画する前の運営の仕事

「選曲案を提出したので、演奏会の演出案も含め運営を手伝って欲しい」という名目で、運営の参画打診が来た。これは想定通り、引き受けることにした。

想定の範囲外だったのは、楽団の内部で運営に関して軋轢が生じ、運営メンバーと奏者の一部同士との間で、対立があったこと。どのような対立軸があったのか、について明言は避けるが、少なくとも「このままでは楽団が解体してしまうのでは」と私が思うほど、その対立は深刻だった。

これまでの団員が退団して、演奏会は挙行できるだろうか。時期が早ければ、代わりの奏者を探してきて、本番まで持っていくことは可能だろう。しかしそれでは意味が無い。THPOのコンセプトも好きだが、THPOに参加している団員それぞれが、そして各人の演奏が一つとなって演奏会となることが好きなのだから。

「楽団をまとめるために、出来る限りのことはした」と言うと、ちょっと大袈裟だ。私にはリーダーシップの素質はない、というか人とのコミュニケーションもいささか覚束無い具合だ。4回の演奏会をこれまで経験してきたけれど、THPOの各面々がどのような考えを持っているか、というのは把握しきれていない。下手に動き出して、かえって事態が拗れてしまってはいけない。

そんなわけで、自分で行える無理のない範囲内で、こそこそ動くこととした。具体的には、メールで意見を提出していた人を集めてお茶会をしたり(気づくと同じセクションのリーダーばかりだった)、以前からいる運営陣に「こうしたら良いのじゃないか」と説得するためのスライドを送ったり。団長の発案で、練習シーズンが始まる前に運営とパートリーダーを集めて行ったディスカッションでは、会議では初めてのファシリテーターをやってみたりしました。あれは疲れた。疲れたけれど、その甲斐もあって不満や意見を皆が共有できて、それなりに前進したのではないかと思う。

「企画」って何するんだっけ

運営に「企画」として参画するということで、以下の業務をすることになった。

  1. 演奏会の進行計画(語り部のセリフ、世界観、演奏会進行)
  2. デザイン(チラシ、パンフレット)
  3. SNS対応

結論から言うと、演奏会での語り部のセリフ回しなどは、前任者の手助けを多く貰って(というか、仕事を丸投げして)行うことになった。ちょっと業務多すぎた。

それでも何故自分が引き受けたかというと、演奏会全体での世界観を統一したかったから。演奏会は舞台だけでなく、演奏会の情報を案内するチラシ、最初に受け取り曲紹介が書かれているパンフレットなど、全て合わさって演奏会の世界を作りたかったのだ。以前の演奏会ではプロのデザイナーに頼んでいたけれど、世界観の共有度や運営とのやりとりも考え、自前で行うこととした。

デザインはチラシもチケットもパンフレットも、非常に難産だった。主に用いる画像を、自分が撮影した首都圏外郭放水路に決定した以降も、チラシの写真を使い回すか、それとも別の角度からの写真に差し替えるのか、というところで悩んで完成が遅れてしまった。締め切り間際で入稿したため、パンフレットはいくつか間違ったまま印刷されてしまったのは後悔してもしきれない。けれど、悩んだ分だけよい作りになったと思っている。特に、物語の登場人物の手記と純粋な曲紹介を並べて掲載するプランは、公演の構成とも合致し、分量もちょうどよく収まっていい出来になっていると自負している。

THPO 第13回演奏会パンフレット 表面
THPO 第13回演奏会パンフレット 表面
THPO第13回演奏会《Another World》 パンフレット裏面
THPO第13回演奏会《Another World》 パンフレット裏面

公演の演出面では、セリフ回しは丸投げしてしまったけれども、『「仮面舞踏会」=奏者が仮面をつけて演奏、ホールを仮面舞踏会の会場そのものに』、『「魔法使いの弟子」=曲のそれぞれのモチーフを抜き出して紹介、曲の雰囲気をお客様が把握して通して聞いてもらう』、『「新世界より」=アメリカンスタイルで入場、第2楽章は照明を駆使して夜明けから日没を暗示』という、大まかな演出の内容は提示させてもらった。

「仮面舞踏会で奏者が仮面を付ける」というのは、特に私がこだわったポイントである。仮面をつけずに演奏するぐらいなら、ハチャトゥリアン「仮面舞踏会」を演奏する必要もないとまで思ったほど。実際には、特に管楽器奏者からの「つけて演奏するのは難しい」という意見を汲んで、入場時に仮面を付け、その後は各自の判断で着脱する、ということに落ち着いたけれども…「この演奏会は普通の演奏会ではない、聞いてもらっているお客様にクラシック音楽をより親しんでもらうために、一工夫も二工夫もする団体なんですよ」というメッセージを、言葉以外の方法で、演奏会のはじめに伝えたかったのである。

THPO第13回演奏会 リハーサル
THPO第13回演奏会 リハーサル 仮面を装着して「仮面舞踏会」を演奏するB4たかし

運営もするし演奏もする

運営に関することだけで長々と書き連ねてしまった。ここまで頑張っているのだから演奏では気を抜いてもいいよね、と言いたいところだがそうは問屋が卸さない。3曲とも演奏、しかも魔法使いの弟子はコントラファゴット、新世界よりは1st、とオイシい=大変な役回りだ。

「曲は簡単」と言うと他パートに怒られる。実際、特に新世界の第1楽章でクラリネット1stと合わない(というか合ってるのか合ってないのか吹いていてもよく分からない)部分や、第3楽章でどうやっても入りのタイミングに掴みどころのないソロとか、そういう意味で難しい曲目ではあったけれども。しかし、自分のできる力量でできる演奏を、それなりには発揮できた演奏じゃないかと思う。

そうそう、アンコールまで演奏し終えた時、堪えきれず泣いてしまったヒネモスでも演奏しながら泣いてたけど、今回は「新世界より」の第2楽章あたりから涙腺が熱くなるのを感じ、第4楽章の最後のフェルマータを吹き終えてからは涙を止めるのに必死だった。そちらに思考が集中したためか、アンコールの「天国と地獄」はへたばらず最後まで演奏できたのだが、その後は、会場の万雷拍手で自分の泣き声が掻き消されるままだった。

数ヶ月に亘って準備してきた演奏会が、自分の思いが特に詰まったこの演奏会が、無事に終わることへの安堵、終わってしまうという寂寥、拍手でお客様の満足が感じ取られた歓びが、涙となって凝縮したのだと思います。

次もあるんですよ

なんかもう燃え尽きてしまった感がありますが、まだ自分の演奏活動は続きますし(今年まだ一本番あります)、THPOの次回演奏会への取り組みはもう始まっています。

アンケートにまだ目を通してはいないのですが、受付に寄せられた声などから、「子供の声がうるさい」という意見がお客様から複数寄せられているのは確認しています。「子供に親しんでもらう演奏会」という取り組みを続けているTHPOなので、未就学児を入場させない、というわけにはいかないのですが、確かに今回の演奏会、舞台で演奏していても子供の声が結構聞こえました。ホール扉近くに用意した親子優先席をご案内はしていたのですが、周知不足であったり、「演奏中に子供がぐずりだしたら出て良いのか?」と考える親御さんへのフォローが足りなかったのではないかと思います。

また、今回800人近くのお客様を呼んだことから起こった問題ですが、招待状とチケットの引き換えで(特に受付を)混乱させてしまったことも課題の一つです。演奏中は受付をスタッフに預けるわけで、スタッフの負荷を少しでも軽減できるようなシステムを早急に立ち上げなければなりません。

次回の演奏会のプログラム《オール サン=サーンス プログラム》(「サムソンとデリラ」よりバッカナール、「動物の謝肉祭」、「交響曲第3番オルガン付き」)は私の考案ではないのですが、しかし演奏会企画としていろいろ演出が考えられそうなプログラム。「これでこそTHPO」と言われるような演奏会となるよう、今から準備していきたいと思います。

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