#真田丸総評 2016年大河ドラマ『真田丸』はなぜ面白いと感じたか

今年一年掛けてNHKで放送された大河ドラマ『真田丸』、三谷幸喜脚本、堺雅人主演のこのドラマは、今まで幾度も描かれた戦国時代を対象としながら、新たな視点や斬新な演出で視聴者を湧かせ、SNSを(で?)盛り上げました。

真田丸がどうして面白かったか、というかどこが良かったか。色んな人が評しているとは思いますが、私なりに思うところもありまして(実は6月頃に「ここが面白いよ!」という記事を書こうと思って結局最終回まで来てしまった…)まとめ感想として書きたいと思います。

(この記事の中では人物の敬称を省略しています、予めご了承下さい。)

主演・堺雅人の唯一無二の魅力

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「新選組!」での山南敬助で見せた切れ者かつ優しい武士、「半沢直樹」でのまじめかつ正義感あふれる銀行員、「リーガル・ハイ」での古御門研介で披露した一癖も二癖もある奇っ怪な弁護士など、彼の演技力が本作でも遺憾なく発揮されているのは当然でしょう。

堺雅人 - Google 検索 (20161229)
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しかし、真田信繁を演じた堺雅人の最大の魅力は、氷山をも溶かしてしまうような、暖かな屈託のない曇りない笑顔だ、と私は考えています。演技力の高い俳優は日本にも沢山いるが、彼のような笑顔を兼ね備えている役者は多くないのではないでしょうか。

真田信繁(幸村)について、彼の実兄である真田信之は柔和で辛抱強く、物静かで怒る様なことは無いと語っているそうです。この人物像、そっくりそのまま堺雅人本人とほぼ重なります。勇猛果敢な武将・真田左衛門佐幸村を、優しき武士・真田源二郎信繁が演じたように、徳川家康を幾度となく追いつめる大河ドラマ主役を、柔和な笑顔がトレードマークの堺雅人が演じる、という構図が私にはぴったり合うのです。

同じ人物が少年期から壮年期まで年を重ねていく姿を、堺雅人がきちんと演じられている、ということも、他の俳優ではなかなか達成できないことと思います。

さすがに第1話〜第2話の少年の演技(15歳という設定のはず)はちょ〜っと無理があるように思えますが、その後の人質を助けようとして逆に捕らえられて人質となってしまったり、第1次上田合戦で敵方を挑発する姿はまさに10代の振る舞いでした。その後秀吉の下で大坂城で仕えることになり、右往左往しながらも真田と豊臣とを取り持つ姿は、まるで新卒の社会人が経験を積んで会社で成長する姿のように思えたし、九度山で蟄居する間に父昌幸と妻子とともに暮らす姿は、老いゆく父と妻子を養うために日々がんばるお父さんのように見えました。

中の人物は撮影期間の1年ほどしか年をとっていないのに、33年間が経過しているような人物像を表現したのは、もちろんメイクや衣装の影響もありますが、堺雅人の演技力の賜物でしょう。

家康と秀吉、天下人の『老い』

年を経るという点でいくと、真田信繁(幸村)の生涯のライバルとなる徳川家康を演じる内野聖陽の、地方の大名から徐々に頭角を表し、最終的に豊臣家に成り代わり天下人となるまでの年齢の重ね方も素晴らしかったです。初期の頃は精悍な顔つきだったのが、徐々に太っていき(瓜売でのデップりした腹周りは狸親父そのもの!)、最終話あたりで老いつつも眼光鋭い戦国大名の姿を見せてくれました。

老いの演技でいえば、豊臣秀吉を演じる小日向文夫の、最晩年の姿には目を見張りました。単なる老人の役は他のドラマや映画でも何度も見かけています。しかし、「真田丸」での秀吉の老いは、判断力が鈍り、十分に歩くこともままならず、ボケて昔のことばかり繰り返すようになるという、今まであまり映像ではみなかった、しかし現代の我々にとって極めて現実的な要介護老人という姿を見せつけました。老衰した秀吉を、ベッドに連れ戻し優しく寝かしつける信繁の姿は、まさに介護の映像でした。

この他にも例を挙げればきりがないんですが、単なる喜怒哀楽の演技力だけではなく、年を経るごとに感情がどのような制御を受けるか、といった時間軸の長い演技力をドラマ全話で各々の役者が見せてくれました。

演技派の出演陣

脚本の三谷幸喜の役者の人選には、舞台出身の役者が多く起用されています。

真田丸 公式サイト(あらすじ 第9回「駆引」)より
真田丸 公式サイト(あらすじ 第9回「駆引」)より

たとえば真田昌幸の弟である真田信尹を演じた栗原英雄、真田丸がテレビ初出演作品。それまで1984年の劇団四季入団以降、ずっと演劇を中心として活躍してきています(映画の出演経験はこれまで何度かあるようだけれども)。

真田丸 公式サイト(あらすじ 第4回「挑戦」)より
真田丸 公式サイト(あらすじ 第4回「挑戦」)より

第4話のみの出演でしたが、溢れんばかりのカリスマを放っており真田昌幸を圧倒した織田信長、演じていたのは吉田鋼太郎。大学時代からシェイクスピアを得意としており、蜷川幸雄作品の常連でもあります。

真田丸 公式サイト(あらすじ 第27回「不信」)より
真田丸 公式サイト(あらすじ 第27回「不信」)より

秀吉の跡を継いで関白となるも、すれ違いにより自害するという悲劇となってしまう豊臣秀次の役の新納慎也は「エリザベート」を初めとしたミュージカルで多く活躍している役者です。

真田丸 公式サイト(あらすじ 第25回「別離」)より
真田丸 公式サイト(あらすじ 第25回「別離」)より

石田三成と共に豊臣家を支える重臣である大谷吉継を演じた六代目 片岡愛之助は、最近テレビ出演が増えているとはいえ本業は歌舞伎役者。上方舞として三代目 楳茂都扇性の名も持っています。

こちらも例を挙げればきりがないのですが、多くの舞台出身俳優を起用しているのは今回の大河ドラマの特色だと思えます。…というのも、昨年の大河ドラマ「花燃ゆ」は、キャッチコピーをイケメン大河セクシー大河などと銘打っていたそう。つまるところ見た目の良さを第一とした人選であったと読みとれなくもないのですが、それはつまり演技力は役を当てるのに重要な要素ではなかった、ということなのでしょうか、と。それだけが原因ではないのでしょうが、そういった制作方針が、視聴率・評判共に散々な結果に反映されたのではないかと思ってしまうのです。

舞台で演技をするということは、客席の反応をすぐさま役者が感じ取れるということ。舞台役者は必然的に演技力が養われることで、テレビを主な活躍の場とするタレント俳優とは演技力の発展に大きく差があるのではないか、と思います(あくまで個人の感想です)。

閑話休題。真田丸に話を戻すと、バラエティで多く活躍していた大泉洋はそのような舞台俳優の出演者陣の中ではわりとイレギュラーと言える(注:大学時代は演劇研究会に所属していたそうではありますが)。第3話で「お前は芝居ができんからな」と父昌幸に評されたのは、真田信幸(信之)のことを指していただけでなく、それを演じる大泉洋のことを三谷幸喜が評していたのではないか・・・などと邪推してしまいます。

ただ真田丸において大泉洋が演じる真田信之は素晴らしかったです。室賀正武に「黙れ小童!」となじられたり、家のからくりに閉じこめられたり、浮気現場を二人の嫁に見つかったり、真田丸のコメディ要素をほぼ一手に引き受けつつも、第一次上田合戦では逃げ返す徳川群に横槍を入れ、関ヶ原合戦の後に助命嘆願が叶う代わりに「幸」の字を取り上げられ悔しがり、大坂夏の陣で弟信繁を必死に説得するーー真田昌幸の嫡男として、真田信繁の兄として、そして真田家の家長として、立派につとめを果たす姿はまさに真田伊豆守信之でした。このように真田の家を必死に守る大名ならば、死んだ後に領民たちがみな悲しんだというのも納得ですし、そのような人物を演じきった大泉洋は立派な役者でしょう。

出演者への細かな裏付けと描写

そして、多くの登場人物について、その行動を起こすに至った心理変化、その背景についてきちんと描かれていることも特筆すべきでしょう。武田勝頼(演:平岳大)、北条氏政(演:高嶋政伸)、豊臣秀次など、これまで愚かな行動により自爆してしまった、ぐらいにしか描かれていなかった歴史上の人物が、各々のこれまでの人生経験に基づき、彼らなりに生き残るために必死に行動していた、という描かれ方をしていました。この一人一人の人物像を丁寧に描いていることが、「スピンオフドラマを見たい!」という視聴者からの反響となっているのでしょう。

ここまで出演者について多く字数をかけてしまったのだけれど、他の面においても真田丸には名作となるべき数多くの要素がありました。

映像をもり立てる音楽

アマチュア奏者として見過ごすことができないのは、音楽の良さです。オープニング曲はヴァイオリンのソロが曲の全般で活躍することが特徴であるが、その裏で活躍する低音パート(最初ファゴット、バスクラリネット、低弦と受け渡される)も曲の雰囲気を高めています。

オープニングのみならず、すべての劇伴の音楽が、映像との一体感が高いです。たとえば豊臣家のテーマでもある「聚楽第」は、曲の華々しさと威厳の高さ、それでいて悲劇を予兆させる響きが、豊臣家のその後の滅亡をも予感させるようです。「真田家の道」は真田家の混迷のシーンで流れており、混迷する真田家の行く末をサクソフォンの音色で見事に表現しています。

NHK大河ドラマ 真田丸 音楽全集 のAmazonのページではほぼ全曲の視聴ができます。)

本編を盛り上げるSNS

TV本編だけでなく、Twitterでハッシュタグを付けた投稿で盛り上がり、上記のようなまとめを読んでさらに楽しむ、ということも真田丸ならではの出来事でした。放送を一度視聴しただけでは読み取れなかった内容を、ユーザーの書き込みで発見してさらに奥深く内容を知ることが何度かありました。また時代考証の丸島和洋を始めとした歴史家の方々の書き込みで、ドラマ本編でどこが史実でどこがフィクションなのか、といったことも知ることが出来ました。

全50話、1年間という長いスパンのドラマながら、毎週毎週の放送が待ち遠しくなる、という稀有な体験をすることが出来た2016年大河ドラマ『真田丸』。真田信繁(幸村)の死と真田信之の歩みでドラマは終わりましたが、真田家の存亡に奔走する真田信之の今後を見てみたい気もしますし、後北条氏や槍ヶ岳七本槍の若い頃のドラマも見てみたいですし、豊臣秀頼が大坂城から逃げ出すIF歴史モノも見てみたい気もします。いい作品を作ってくれた制作陣の方に感謝するとともに、今後も良い映像作品を作っていただきたいです。




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