日経夕刊「体・験・学 私のアマオケ探して」、アマオケ界隈から批判が大・殺・到

記者の体験した事柄を綴る連載「体・験・学」が、日本経済新聞の夕刊で連載されています。6月6日からの連載は、中井豊記者による「私のアマオケ 探して」です。

高校オケから十数年、社会人になってからオーケストラに復帰した顛末を記しているのですが、その奮闘ぶりが一部のアマオケ界隈でちょっとした騒動になっています。

記事の内容は、電子版でも読むことが出来ます。

私のTLでの反応を見ると、おおよそ以下の点がちょっと気に食わない、って思われているようです。

音楽を再開する動機が不純

アマオケに入団する人って、「あの曲をやりたい!」とか「音楽を一緒につくりあげたい!」とか「聞くだけじゃなく舞台で音楽を感じたい!」とか、まあそんな理由が多いと思うのです。

ところが、この記者の場合、音楽的な思いよりも、息子からの承認欲求を得たい、という動機が第一にあるようです。

私は高校時代にオーケストラ部でクラリネットを吹いていた。ところが子供が偶然、自分と同じ高校の同じ部に入り、楽譜を手にして聞いてきたのだ。「父さん、本当にこの曲をクラリネットで吹いていたの?」。当時の武勇伝を語ったが、信じてもらえない。記念に作ったレコードも実家のどこかに紛れてしまったから証明できない。

いい機会だ。もう一度オーケストラに入って私の実力を示してやろう。

アマオケに入っている人が、誰しも最初から純粋な動機を持っていたとは限りません。「楽器でモテたい!」とか「見返したい!」とかだってあるでしょう。

でも、一度音楽から遠ざかって、またもう一度楽器を持つ、という動機としては、ちょいと不純ではないかと思えます。

入団できないからと楽器をさっさと変える

記者は最初クラリネットでオーケストラの入団オーディションを受けますが、敢え無く落選。すると、「オーケストラでは弦楽器の方が枠がいっぱいある!」ということでヴァイオリンに持ち替えます。

募集しているのはファゴットやホルンなど一般人は触ることのない、あるいは高価な楽器担当がずらり。わがクラリネットやフルートは「募集締め切り」のオンパレードだ。

(中略)

「オケ専♪」ではどこのオケも土下座せんばかりに募集している楽器がある。バイオリンやビオラなどの弦楽器だ。とにかくアタマ数が必要なのだろう。弦楽器なら私の人生を変えてくれるはず――。クラリネットを押し入れにしまい、初挑戦の弦楽器を学ぼうと近所の楽器店の門をたたいた。

ええ、確かに弦楽器はどのオーケストラでも募集を行っています。少なくとも管楽器よりは競争倍率は低いでしょう。(クラリネットなら吹奏楽団に入ればいいのに、という話は横に置きます)。

初めてオーケストラに入った時、希望した楽器が充てがわれない人も少なく無いでしょう。かくいう私もトロンボーン希望が叶わず、ファゴットに転向しています。そうでなくても、自分のやってみたい楽器が別に出てきて、乗り換える人も皆無ではありません。

しかし、この記者のこの書き方、「ほらヴァイオリン奏者だぞ、人がほしいんだろ?ほら、入団してやるよ」と言わんばかりの態度とも見えかねません。それにそんなに簡単にクラリネット諦めるんですか、下手ならもっと練習すればいいのに。

そもそもこの時点で、「かつてオーケストラでクラリネットをやっていたことで息子を見返したい」という動機があやふやです。

練習不足のまま入団し合奏に加わる

ヴァイオリンに転向した記者は、レッスンに通い楽器を習います。本来ならある程度練習曲が弾けるようになってから、巷の楽団に入団する、という流れなのでしょうが。

バイオリンを始めたと知り合いのジャズ演奏者に話すとこう言われた。「クラシックの人は曲『を』練習するけど、我々ジャズの人間は曲『で』練習するんです。名曲は聴いて楽しいから練習もどんどんはかどる。練習曲ってコンサートではそんなに演奏しないでしょ。それで練習して、成果が出るの?」。ジャズマン方式を導入すれば、もしかしたら格段に技術が進むかもしれない。

「名曲で練習しよう」。教室に通い始めて3カ月、並行してやることを決意した。音楽仲間募集サイト「オケ専♪」で、技量不足の自分でも入れそうなオケを探す。うまく横浜のオケに潜り込めた。割り当てられた曲はブラームスの交響曲第1番。大曲だ。これは効いた。

あまり技量のないまま入団し、曲を練習しながら上達を図ったようです。

曲を練習することで、それまで見えてこなかった不足な点が見えてきたり、新たな発見などはあるでしょう。何度も演奏したことのある名曲でも次々と出会いがあるからこそ、クラシック音楽は深いのです。

けれども、モノには限度があります。時間が厖大にある学生オーケストラと違い、社会人が主体で構成されているアマオケは、練習時間も限られます。仕事の合間を縫って練習会場に来ている人ばかりなのですから、合奏で個人練習をする暇はありません。

「最低限曲を把握し演奏できるようになってから合奏に参加する。合奏ではパート同士の連携や響き、指揮者の感情などを共有する場所であるべき」というのが、アマオケで合奏する者の努めでしょう。まあ、それが毎回毎合奏で全員できている、ってわけにはなかなか行きませんが、少なくともそういう姿勢を目指すべきでしょう。

・・・まあ、ここまでの話はまああることで、私としてはちょっと疑問に思ってもスルーできるレベルなのですが・・・

本番直前に自身の技量を理由として退団

合奏を経て上手くなっていった記者ですが、ブラームス交響曲第1番は難しかったようです。うん、それは分かるんですが、ボーイング(弓使い)が周りと合わせることが叶わなかったようです。

前後左右に人がいて「弾けなければいけない」という緊張感がある。3カ月、死ぬ思いで取り組むとテキストの練習曲の数倍の速さで指使いを覚えた。バイオリンの楽譜は2人で1つ、舞台内側に座る人がめくるというルールを初めて知った。定位置がクラリネットと違うから指揮者の見え方も違う。面白い。

ただ「初心者OK」のオケのみなさんは優しかったが、ブラームスさんは初心者を許してくれなかった。指使いは進化したが、弓をみんなと同じ向きで上下できない。コンサートに間に合わず、直前に退団した。

本番直前まで出来ないのは演奏的に問題ですが、出来ないからって本番直前で辞められるのは運営的に問題です。

ヴァイオリンなど弦楽器は、ぶっちゃけた話、出来ない箇所があったらそこは「弾いた振り」だけして弓を浮かせて、音を出さなければ良いんです。少なくとも見た目にはバレないでしょうし、変な音を発生させて周りの足を引っ張ることもありません。管楽器ならやっちゃいけませんが。

本番直前で退団、となると――まず気になるのは会計上の話。参加費を返還する必要があるかもしれません。一部であっても参加費を返すとなると、アマオケの運営費の再計算が必要となります。「○人の参加者ということで参加費を決定したのに!」という会計担当者の悲鳴が聞こえてきそうです。(楽団に依っては、一度支払いした参加費は返さない、などの規定があるでしょう。)

そして広報、というかパンフレットの話。おそらくアマオケはどこでも参加者の一覧をパンフレットに載せていますが、これも変更です。脱稿に間に合えばパンフレット担当者に修正してもらう、それが無理なら訂正用の紙を挟むか、シールで貼って名前を隠すか――ああ面倒くさい!

おそらくアマオケで運営を経験したことがある人ならば、演奏会直前での退団が一番堪えるのではないでしょうか。

Twitterではこの記者のアマオケへの姿勢に非難の声が上がっています。

ま、まあ、まだ3回目、今後はもうちょっといい話になるかもしれませんから、もうちょっと長い目で読みましょ、ね?

ちなみにこの記者、アマオケ熱が高まり、新たなオーケストラ創設に心が動いているようです。

参加して3カ月、楽しい時間が過ぎた。以前の自分のように、演奏から離れていてもまたやってみたいという人はどこにだっているはず。こんなに自然体で仲間を集めている先輩たちのように、私も楽団をつくってみたい。ふつふつと思いがわき起こった。「規模の小さい室内楽なら何とかならないかな」。午後オケの小林さんに相談を持ちかけた。

そうですか。

Facebook にシェア
LINEで送る
Pocket