アニメ業界で働く人達の日常の奮闘を描くアニメ「SHIROBAKO」が、2016年の正月にTOKYO MXおよびBSフジで一挙再放送されます。
アニメ作品は数多ありますが、この作品の特徴として「社会人の群像劇」であることが挙げられるでしょう。学園モノや異世界モノが多いアニメ作品の中で、現代社会の職業、そして(フィクションを挟んではいますが)社会を渡っていくうえでよくある悩みやトラブルをリアルに、そしてコミカルに描くこの作品は、2014年秋〜2015年冬の放送時から話題となりました。
私は2015年5月にニコニコ生放送の一挙放送で視聴したのですが、その時に面白いと感じたと同時に、主人公の一人宮森あおいが担当している「制作進行」という仕事が、建設業界の「施工管理」と、非常に似ていると感じました。
- 職人の仕事を管理するのが仕事
-
原画マン、動画マン、背景や撮影など、アニメ業界では様々な職人さんが居ます。それらの実際に手を動かして絵を書いたり音を撮ったりする人たちに仕事を振り分け、間を取り持ち、納期通りに作品を完成までもていくのが制作進行という仕事です。
「絵を描いたり声優はできないけど、アニメは好きです!」的なことを(うろ覚え)宮森あおいが言っているように、手に職があるというわけではないけれど、この人がいないとアニメが取りまとまらない、という大事な仕事です。
建設現場において元請けである施工管理というのも、鉄筋工や型枠工、電気設備や壁紙工など、建設現場で働く職人さん達に、仕事を指示して、遅滞なく土木構築物・建築物を施主に引き渡す、というのが施工管理の仕事です。
施工管理であるゼネコン職員(監督さん、などと現場ではよく言われます)が、実際に鉄筋を組んだり壁紙を貼ったりすることはまずありませんが(できる人はいるかもしれませんが…)、この仕事がなければ建設現場は成り立ちません。
- 仕事の日取りが大事(そして大抵その通りに進まない)
-
テレビ放送が主な主戦場であるアニメは、テレビ放送が始まると一週間ごとに納期が来るというハードスケジュール。そのため都度の納期に間に合うよう、工数を見積もって逆算してどの日までにどの仕事を進めなければいけないか、制作進行は考えておかなければいけません。
ただ、予め決めていた工程表通りに進まないこともままあるようでして。最悪納期に間に合わない場合、今までのシーンを切り貼りして作られた「総集編」という最後の手でその週を逃げ切らなければいけません。それは絶対に阻止してもらいたい、と視聴者としては願うところですが。
建設物も段取りが非常に重要です。例えば8階建のマンションならば、6階の型枠の作業を始めたら下階の脱型はそろそろ行って、場合によっては一番下の階から石膏ボードなど内装を進めていかなければ、と工程を平行して進める必要があります。
作業が遅れていると土日返上、夜間も通した突貫工事、という場合もあります。ただ夜間工事は周辺地域との協定で不可能なことも多く、土日も職人さんが捕まらず結局作業にならず、引き渡し当日になっても作業が続いている…ということもあるとかないとか。引き渡しが遅れると違約金とかあるんじゃないですかね、コワイデスネ。
- いい作品には打ち合わせを重ねること
-
久乃木愛(原画)「これは!下着!ですかぁ!?」
木下誠一(監督)「はい!これは下着です!」
山田昌志(演出家)「ノアの下着です!」
円宏則(演出家)「それは!白い!です!」
原画担当が原画を作る元となるのが設定集や絵コンテですが、それら元の資料では補完できない箇所に関しては、監督や演出に指示を仰がなくてはなりません。
建設物の場合も、設計図や標準仕様書だけでは分からない、構造物と内装の取り合いなど細かい箇所については、現場監督や設計者に確認を取る必要があります。
打ち合わせの時間は作業を止めなきゃいけないし時間と場所をセッティングしなきゃいけないし面倒なものですが、これがあってこそいい作品というのが生まれるのですよね。
- 悩みは人間関係が9割
-
制作とアニメーターの反りが合わない、新たな仕事を振らなければいけない… 仕事での悩みというのはほとんどが人間関係、というのが作中でも描かれています。
年上の職人に指示しなければいけない、職人の反発と主任との間で板挟み…など、施工管理でも人との悩みはつきません。というか本当、仕事の悩みの殆どは人間関係です。
- 飲みニケーションで大抵はなんとかなる
-
アニメーターや原画マン、制作デスクの宮森ともなかなか馴染まない中途入社の平岡でしたが、同じく制作の高梨が飲みに誘います。そこで明かされた平岡の過去、以前の会社で何があり、どうして業界への高望みを失ったか…といったことを吐露することで、二人の親睦が生まれ(ていないようにも見えますが)、徐々に平岡は会社に馴染んでいきます。終盤ではバリバリ働く姿を見せたりしています。
同僚と愚痴を語り合ったり、職人と悩みを共有したりすることで、仕事上でも円滑に事が進んだりすることがままあります。「悩みは人間関係が9割」と上記しましたが、その悩みを解消する9割は飲みでの打ち解けだったりします。
- 原作者は神、施主は神
-
原作付きのアニメを制作している終盤、原作にない話の展開について書店側から一度はOKを出されますが、ちゃぶ台返しでNGを出され、主人公含めアニメ会社側は窮地に立たされます。原作付き作品を作るにあたって、原作者というのは神に等しい存在、それに逆らうことなど出来ないのです。
アニメ制作における原作者、建設現場で言えば施主でしょう。橋梁なら国・自治体、マンションならデベロッパー、学校なら学校法人など様々ですが、施主がNOと言えばそれに従わざるをえないのが施工会社。塗装の塗替えタイルの張り替えは勿論のこと、壁だって天井だってやれと言われれば削ったり作りなおしたりします。
- 作り遂げた感動は皆ひとしお
-
途中ではバラバラになりかけた制作陣ですが、最後には納期通りに作品を作り終え、放映までたどり着きます。
なぜ辛い仕事を続けるのか。納期が厳しく供給過多なアニメ業界、不規則になりがちな就業時間…そんな状況でも仕事を作り続ける理由を、「アニメを作ることが好き、アニメを作る人が好き」というところに見つけます。
建設業界も、土日もろくに休めないし残業はなかなかなくならない、下請けとの調整でストレスは溜まる、キツイ汚い危険の3K現場仕事で大変で、新卒3年での離職率は高い、そんな職場です。
それでも建設業界に残っている人は…やはり、建設物をつくり上げるということ、そして建設に関わる人達が好きなのだと思います。
どうでしょう、アニメ業界における「制作進行」と建設業界における「施工管理」、似てますよね。自分自身も施工管理の業務経験があるため、この作品は共感することが出来たのだと思っております。
勿論違う点もあるんですが(アニメ業界みたいに女性は多くないし、一般視聴者向けの作品であるアニメに比べて建設業界は一般人からの注目度や期待度が多くないし、何かにつけて談合だ手抜き工事だと目の敵にされるし)、社会人にこそオススメなSHIROBAKO、お正月の子の機会に、お暇な方は是非ともご覧くださいませ。