新国立競技場の現行改築案に反対するもう一つの理由

http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/
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2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場ですが、現在の改築案では、総事業費が3000億円に上ることが話題になっています。事業を見なおして経費を圧縮して1699億円まで下げているようですが、それでも当初の1300億円からだいぶ費用が膨れ上がっており、計画を見直す声が上がっているようです。

今ある国立競技場(国立霞ヶ丘陸上競技場)を、改築するのではなく改修して使おう、という署名運動が、「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」によって行われています。賛同はChange.orgというサイト上で、何クリックかで行うことが出来ます。

実名を入力してChange.orgに登録するか、Facebookアカウントを使ってログインすることが出来る。必然的に実名を公表することになるの(署名なので当たり前)ですが、もし下記サイトの趣旨に賛同する人がいたら、登録してみてはどうでしょうか。

なぜ建設費が高いのか

なぜこのような高額な建設費になったかというところだが、建築家・建築エコノミストの森山高至氏が「橋梁のような構造をしているため」だと分析しています。

ちなみに、この案が技術的に困難である点については、既に講評で橋梁ともいうべき象徴的なアーチ状主架構の実現は、現代日本の建設技術の粋を尽くすべき挑戦となるものであると述べられていることから、審査員は把握していたようです。ちなみに別の入選案では現実的課題をクリアすることに懸念があり、入選案となったということだそうですが、ちょっと言っている意味がよくわからないですね。

コンペ案を棄却して良いのか

折角専門家が話し合って決めた案なのに、それをひっくり返しちゃって良いのか?と思ってしまいますが、先の森山氏の別の記事で全く問題ないと断言しています。

新国立競技場のコンペをめぐる議論なのですが、

日本人は生真面目なので、
国際コンペで1位になったにもかかわらず見直ししていいのか、、
といった意見もあるようなんですが、

全然いいんです!

むしろ建築家同士の間での業界事情で決まった提案が、社会要請や環境から受け取る人々の感性から、まったく乖離してしまっている場合に、市民や関係者の間で再検討された結果、

コンペ案を却下して見直すのが世界的トレンドなんです。

2001年9月11日の同時多発テロで崩壊したワールド・トレード・センタービルの跡地にはダニエル・リベスキンド氏の設計案が一度は採用されたのですが、様々な理由によって変更となったそうで、他にもそういったケースは少なくないようです。

新国立競技場に反対する5+1つの理由

ここまで引用しながら書くと、おおよそ建て替えに反対する理由はまとまってきますが、改めてChange.orgのページから、改築反対案の要旨だけ列挙してみます。

  1. 神宮外苑のイチョウ並木や青空の景観を破壊します
  2. 常識を超えた巨額の工事費に税金が使われます。
  3. 災害時の対応やバリアフリーに対し心配です。
  4. 東日本大震災の復興を阻害すること
  5. 次世代に負担をかける恐れがあること

これらの理由に加えて、私はもう一つ、というか「高すぎる建設費」という理由に補足をしたいと思います。それは、「人工(にんく)が掛かる」という理由を上げたいと思います。

人工、つまり作業員、労働量が大きいということ。費用が高いこととほぼイコールなのですが、つまり建設に従事する要員が多くなりすぎるのは避けたい、ということです。

ここ何年かで、建設業界の労務費は高騰しています。公共工事の入札不調が相次いでいるのは、何もゼネコンが金を出し渋っているわけではなく、下請け業者に払う賃金が高くなっているせいで、建設物そのものの値段を上げざるをえないからなのです。

なぜ労務費が上がるかというと、建設に従事する労働者が減っているから。なぜ建設労働者が少なくなっているかというと、2009年に発足した民主党政権による「コンクリートから人へ」のスローガンで公共工事を減らしたから。

建設労働者が減った矢先、2011年の東日本大震災による震災・津波災害からの復旧復興で、建設需要は一転増加となります。2012年に自民党が政権復帰して以降、「国土強靱化」の名のもとに建設需要が全体的に高まっています。そして2013年には東京オリンピック開催が決定、俄然建設需要は高まりますが、そこへ労働力不足という足枷がついてきます。

「需要が高まるならいいじゃないか」という意見もあるかもしれませんが、一度離れた労働者は、なかなか元の業界に戻ってくれません。そりゃそうです、「キツい、汚い、危険」という所謂「3K」の職場ですから。

下請けだけでなく、ゼネコン本体も全体的に人手不足です。何を隠そう私が現在勤めている会社も人員が不足しており、間接部門(研究所や設計部門、企画部門など)から直接部門(現場事務所)に転換してなんとか人をやりくりしている状態です。経営陣は何を考えているか知りませんが、私としては「もう仕事は増やしてほしくない」というのが正直な感想です。

長くなりましたが、このような考えのもと、私はChange.orgで「いまある国立競技場を直して使おう!」に賛同しました。森山氏の想定したリファイン案ならば、改修と仮設観客席で8万人が収容でき、なおかつサブトラック問題も解消できるそうです。

http://ameblo.jp/mori-arch-econo/image-11711250355-12760165195.html
新国立競技場の建設コンペをめぐる議論について15の画像 | 建築エコノミスト 森山のブログ via kwout

技術的にも見た目的にも優れた、現在の改築案は素晴らしいとは思います。しかし、1964年の東京オリンピックで使われた競技場を、改修することで半世紀以上後でもちゃんと使用できるようにすることも、また素晴らしいと思います。皆が納得できるようなプランが出てほしいです。

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