ラブライブ!サンシャイン!!と無印との違い、そして横浜フリューゲルス

政府の「Go To Travel キャンペーン」に東京都民などを除外することに関連して、独自の観光業支援策を用意している沼津市では感染予防策を厳守してお越しいただきたい。歓待すると都民も含め歓迎する、と発表したことがニュースになっていました。

ちょうど三島に住んでいる大学オケの先輩が新居を構えたということで、ゲームをするという目的も合わせて、4連休の3日目、25日に沼津港に立ち寄って遊びに行ってきました。

ところで先程のニュースにおいて、写真に写っていたのは沼津市長である頼重秀一氏と、沼津を舞台としたアニメ、ラブライブ!サンシャイン!!の主人公である高海千歌のポスターです。

おもてなし用のペットボトルを手にした頼重秀一市長=2020年7月22日午前11時2分、静岡県沼津市役所、岡田和彦撮影
「都民除外せず」沼津市が独自支援 GoToと一線画す [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

そういえば第1作である『ラブライブ!』(以下、『無印』)は劇場版も含めてアニメ作品を全て視聴したけど、第2作の『ラブライブ!サンシャイン!!』(以下、『サンシャイン!!』)は未視聴だったことを思い出し、4連休2日目の24日に一日通して全て見ることにしました。

無印とサンシャイン!!は同じような物語だと思っていて、事実共通する部分も多いのですが、全話通してみると少なからず、明確な意図を持って話の筋が違うところにあると感じられました。

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ラブライブ! μ’s First LoveLive! [Blu-ray]

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(ラブライブ!は漫画やスマホゲームなど複数での媒体が展開されていますが、ここではアニメ作品に絞って話をします。)

ラブライブ!』(無印)のTVアニメは2013年から2014年にかけて放映、秋葉原にある高校、国立音ノ木坂学院でアイドル活動を行う「μ’s(ミューズ)」の物語であり、2015年には劇場版も作られました。

ラブライブ!サンシャイン!!』(サンシャイン!!)のTVアニメは2016年から2017年にかけて放映、沼津にある高校、私立浦の星女学院でアイドル活動を行う「Aqours(アクア)」の物語であり、2019年には劇場版も作られました。

女子高生がアイドル活動をするというのはもちろん共通点なのですが、他にも:

  • 1年生から3年生まで3人ずつ、合計9人のユニット
  • 主人公は2年生の元気な子、その子を含めた3人で活動をスタート
  • 作曲できるメンバーを勧誘する回がある
  • 最初のライブは学校の講堂で行う
  • 高校で以前にもアイドル活動をしていた先輩がいて、後にメンバーに加わる
  • 最初は活動に反対していた生徒会もメンバーに加わる
  • スクールアイドルの活動で廃校の危機を救うことを画策する
  • なんやかんやあってラブライブで優勝する
  • なんやかんやあって劇場版では海外でライブする

――などなど。こうして見ると、サンシャイン!!は無印の焼き直しにも思えます。しかし相違点も複数あり、これが両者の違いを引き立たせているように思えます。

アイドルグループ結成のきっかけ
無印 : 音ノ木坂学院が廃校になると知り、学校の人気を高め入学希望者を増やすための手段として、2年生の3人(高坂穂乃果、南ことり、園田海未)がスクールアイドルという手段を取る
サンシャイン!! : スクールアイドル「μ’s」に憧れ、自分も輝きたいと考え高海千歌がスクールアイドル部を立ち上げる

ラブライブ! #1 叶え!私たちの夢――

(冒頭、廃校を知るシーンから始まる。スクールアイドル結成を思いつくのはもう少し後。)

ラブライブ! サンシャイン!! #1 輝きたい!!

(冒頭、スクールアイドル部の立ち上げから始まる。廃校を知るのはもう5話進んでから。)

上で「廃校の危機を救うことを画策」と書いてますが、Aqoursは最初はそのような意図なく結成されてるんですね。μ’sという伝説的なスクールアイドルに憧れて結成、廃校の危機が知らされるのはメンバーが6人になった第6話でのこと。千歌はここで「μ’sが廃校の危機を救ったのだから、Aqoursも救えるはずだ」と運命めいたものを感じていますが、Aqoursが廃校の危機を救うのはあくまで後付なんですね。

学校での最初のライブ
無印 : 誰も集まらないままライブを行う(実は数名がいるが)
サンシャイン!! : 誰も集まらないまま…と思いきや地元の住人が観客で集まる

μ’sのファーストライブは無観客、という前途多難なものでした(それが却って後の伝説に繋がるのかもしれません)。Aqoursもそうなるか、と思いきや地元の住人が押し寄せます。家族の力で近所にポスターを貼りまくった効果でしょうが、ここらへんはコミュニティが小さい田舎ゆえの展開でしょうか。

スクールアイドルで廃校の危機を
無印 : 救えた
サンシャイン!! : 救えなかった

いやもう、サンシャイン!!を見ているときに一番ビックリしたのがここです。そして無印と明確に路線を異ならせているうちの1つでしょう。

学校説明会の希望者が100名を超えたら統廃合を撤回という条件を与えられ、なんとか締め切りを延ばしてもらって、説明会の参加者が98名まで伸びた、というところで締め切り。「努力と友情で勝利を!」というテンプレートに則るか、と思わせての挫折。現実は非情です。

都心に拠点を構えた高校が3年後に廃校という音ノ木坂学院(むしろそんな好条件で廃校の危機というのはよっぽど学校経営側がアカンのでは…?)と、全校生徒が100名程度で半年後に廃校という浦の星女学院(統合できる系列校が近くにあるので統合にも支障が少ない)では、廃校と一口に言っても内実が異なる、ということでしょうか。

学校存続という目標が消失した千歌はスクールアイドルを止めることを考えますが、「ラブライブに優勝して浦の星女学院を歴史に刻んでほしい」という在校生の思いに心打たれ、引き続きスクールアイドルを続けることを決意します。

3年生が卒業した後は
無印 : μ’sは解散する
サンシャイン!! : Aqoursは存続する

無印では第2期第11話「私たちが決めたこと」で、『この9人でμ’sであり、3年生が卒業していなくなった時点でμ’sはおしまいにする』と決めています。メンバー9人の結束と絶対性が、のちのAqoursからの憧憬にも現れるような、スクールアイドル・μ’sの神話性を高めていると感じられます。

第2期の最終回が卒業式なのですが、その後を描いた劇場版もあくまで3年生が学校に籍の残っている年度内でストーリー展開します。あくまでμ’sは9人がいて初めて成立している、という形を崩していません。

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劇場版DVDのジャケット、表裏で一続きになっていて、9人のメンバーが満遍なく写っています。これも「μ’sは9人で不可分」ということの現れでしょうか。(もしくは3年生3人の中に1人だけ1年生の西木野真姫が紛れていることから、スタッフ陣がにこまき推しであるだけかもしれません。)

対して、サンシャイン!!の劇場版は浦の星女学院が廃校となり、(廃校時点での)1・2年生が静真高等学校に編入した後のことも描かれています。そこでのライブは6人のみ、昨年度まで所属していた3年生の松浦果南・黒澤ダイヤ・小原鞠莉はもういませんが、Aqoursがスクールアイドルとして活動を再開している場面も登場します。

そもそもAqoursというスクールアイドルユニット名は、果南・ダイヤ・鞠莉が1年生の時にスクールアイドルを開始した際にも名乗っていた名前です。「世代を超えても同じグループが存続していく」というのはサンシャイン!!での物語の根幹と表すことができ、それは無印とのグループへの考え方としてもっとも対比的に描かれるところです。

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劇場版DVDのジャケットは、表面が1年生と2年生の6人、裏面が3人の3人のみ(Amazonリンクの画像は表面しか表示されていません)。場所も衣装も異なることから、「これからのAqours」「最初期のAqours」という位置づけであることを示していると思われます。

同じ9人のスクールアイドルの成長を描きつつも、「廃校の危機を救う」「即座に解散する」という伝説を作り上げた無印に対し、「廃校という問題は解決できなかったが、生徒たちに希望は与えられた」「スクールアイドルの活動は受け継がれていく」という、現実とより地続きな世界観を作ったサンシャイン!!は、それぞれ異なる物語を作ることに成功しているのではないでしょうか。


ところで、「廃止が決定したが、歴史に名を刻むために活動を続ける」というサンシャイン!!でのストーリー展開で、現実世界のあるスポーツ団体を連想しました。1993年から1998年まで存在したプロサッカークラブ、横浜フリューゲルスです。

横浜国際総合競技場 横浜フリューゲルスの看板が掲げられる
Jリーグ最大の「事件」 社会問題となったフリューゲルス=Jリーグを創った男・佐々木一樹 第5回 – スポーツナビ

Jリーグ20年の最大の「事件」が明らかになったのは1998年10月28日水曜日のことだった。創設時からのメンバーだった横浜フリューゲルスが横浜マリノス(現横浜F・マリノス)に吸収合併されるというニュースが伝わったのだ。

親会社である全日空と佐藤工業の経営状況の悪化により、同じ横浜が本拠地であるマリノスに合併する―― 当時はフリューゲルスのファンのみならず、全サッカーファンを巻き込んだ大事件となりました。市民による署名活動も行われましたが、存続することはかないませんでした。

 天皇杯で有終の美を飾った横浜フリューゲルス。
横浜フリューゲルス、最後の2カ月。楢崎正剛「優勝より寂しさの方が」 – Jリーグ – Number Web – ナンバー

そして11月16日、チーム存続を求める嘆願書を携えてJリーグと全日空、そして横浜市役所を訪れた。全日空には30万筆を超える署名も提出した。最後のお願い、そんな思いだっただろう。

しかし、届かなかった。12月2日、両クラブの合併が正式に調印されたのだ。

(中略)

最後の戦いが始まったのは12月13日だ。負けたら終わり、その瞬間に本当の終わり。フリューゲルスにとってそんなトーナメントだった。

(中略)

準々決勝の相手はジュビロ磐田だった。この年ファーストステージ優勝。得点王とMVPに選ばれた中山雅史をはじめ、ベストイレブンに6人が名を連ねる最強チームだった。

さらに中3日で行われる準決勝では、そのジュビロを下して年間チャンピオンになった鹿島アントラーズとの対戦が濃厚。いつ終わりが訪れても不思議ではない状況だった。

だが、フリューゲルスは勝ち続けた。ジュビロ戦では同点で迎えた77分、吉田が決勝ゴールを決めた。吉田は、合併発表後、実に11得点。奇跡の快進撃の立役者となった。そしてアントラーズ戦では、その吉田のアシストから永井が目の覚めるようなボレーでJリーグ王者を破った。

そして――1999年元日、快晴の国立競技場で、決勝戦のピッチに立ったのだ。

エスパルスに先制を許し、久保山の得点で同点に追いついて迎えた後半、“最後のゴール”を決めたのはやはり吉田だった。

合併発表直後には、「この先、サッカー続けていけるかわからない不安もあるし、何よりこのチームで続けられるなら、その可能性があるのなら、何とかしたいけど……」と曇った表情で語っていた。

しかし、すべてをやり尽くしたストライカーの顔には、清々しい笑顔があった。

「このチームで過ごした4年間、その思いを全部ぶつけました」

“最後のホイッスル”を聞いた楢崎はピッチで大の字になった。そして、この2カ月間の心中を明かした。

「サポーターの応援がどんどん大きくなってきて、それに返すには僕らはサッカーしかないから。サッカーでしか表現できないから。だから表そうと。まだ終わりじゃないと思いながら。優勝の嬉しさと消滅の寂しさ? 寂しさの方が大きいかな。これから徐々に大きくなっていく気がします」

表彰式で「フェアなことをしてください」と思いをぶつけた選手会長の前田は、記者に囲まれてからも「フェアなアピールができたと思う」と繰り返し口にして、やっぱり胸を張った。

義憤に駆られた日々だった。前田自身、怒りを露わにしたこともあった。それでも自らを失うことはなかった。何より彼らはただの一度も負けなかった。Jリーグ4試合と天皇杯5試合、すべて勝って9連勝。日本一の頂に立ち、胸を張って堂々とエンドマークを打った。

なお上記引用記事元で取り上げられ、天皇杯優勝の立役者である楢崎正剛選手はその後名古屋グランパスに所属、そこで現役生活を終えることとなりますが、グランパスから移籍しなかった理由はメンバー表などに記載される「前所属チーム」の欄に「横浜フリューゲルス」の名前を残したいという強い思いがあったそうです。

『サンシャイン!!』劇場版では、当初統合先の静真高等学校が「これまで部活動が盛んだったのに浦女の生徒が入るとダラけるのでは」と編入を拒否されていましたが(そういうこと解決してから統合しろよ、というツッコミは置いておいて)、新生Aqoursの活躍により受け入れられることとなりました。

横浜フリューゲルスは、JFL本田技研に移籍した大久保選手以外の全員がJリーグ・チームへ移籍することができましたが、そこには関係者の尽力のほか、天皇杯で各選手が活躍したこともあったそうです。

フリューゲルスとマリノスという2つのチームが統合した横浜を擁する神奈川県、人口あたりのJリーガーが第1位で『サッカー王国』とも呼ばれる隣の静岡県。ラブライブ!サンシャイン!!が、その間に位置する伊豆半島を舞台としたのは、偶然とは思えません。もしかしたら偶然かもしれません。

『ラブライブ!』という大ヒット作に挑戦しつつ、新たなストーリー展開を実現した『ラブライブ! サンシャイン!!』、という構図はそのままμ’sとAqoursそのものの姿とも重なります。スクールアイドル活動に情熱を注ぐ姿と、沼津の風景、どちらも楽しめるラブライブ!サンシャイン!!、お盆休みにお暇な方、時間がある方はご覧になってはいかがでしょうか。

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